看護師が退職をためらう理由の多くは「引き止められて言い出せない」と「収入が途切れる不安」です。前者は手順を踏めば解決できる問題ですし、後者は雇用保険の失業保険(基本手当)と退職金をあらかじめ数字で把握しておくことで、かなりの部分が解消できます。この記事では、看護師の給与構造(夜勤手当の比重が大きい)を踏まえた失業保険の計算ポイントを中心に、辞める前に知っておきたいお金の話をまとめます。
看護師の退職に特有の事情
まず前提として、看護師の退職には他職種と少し違う事情が2つあります。
1つ目は引き止められやすいことです。医療現場は慢性的な人手不足で、1人抜けるとシフトが組みにくくなるため、師長や看護部長から強い慰留を受けるケースが少なくありません。「次の人が入るまで」「年度末まで」と退職時期を先延ばしにされがちですが、退職は労働者の権利であり、引き止めに応じる義務はありません(具体的な対処はFAQで解説します)。手順を踏んでも慰留が強く話が進まない、どうしても自分から言い出せないという場合は、退職代行サービスの選び方で運営元3類型(民間・労働組合・弁護士)の違いと料金相場を整理していますので、あわせてご覧ください。
2つ目は夜勤手当が給与の大きな割合を占めることです。夜勤のある病棟勤務では、月数回の夜勤手当が月収を大きく押し上げており、夜勤手当を含めると給与水準は高めになる傾向があります。これは退職後のお金の計算に直結します。というのも、後述のとおり失業保険の計算には夜勤手当が含まれる一方、夜勤のない職場へ転職すると月収が下がることも多いからです。「手当込みの月収」と「基本給」を分けて把握しておくことが、退職後の資金計画の第一歩です。
失業保険の計算 ─ 夜勤手当が日額を押し上げる
失業保険(雇用保険の基本手当)の金額は、次の手順で決まります。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 賃金日額 | 退職前6ヶ月の賃金合計 ÷ 180(税引き前・賞与は除く) |
| ② 基本手当日額 | 賃金日額 × 給付率50〜80%(60〜64歳は45〜80%)。賃金が低いほど高い給付率。年齢別の上限あり |
| ③ 所定給付日数 | 退職理由・年齢・被保険者期間で決まる(自己都合は勤続10年未満で90日) |
| ④ 給付総額 | 基本手当日額 × 所定給付日数 |
ここで看護師が見落としがちなのが、①の「賃金」には夜勤手当・残業手当・通勤手当などの各種手当が含まれるという点です(3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賞与・ボーナスは含まれません)。基本給だけで概算すると実際より少ない金額が出てしまいます。夜勤の多い人は賃金日額がその分高くなり、基本手当日額も上がります。
逆に注意したいのは、退職前6ヶ月の働き方がそのまま反映されることです。退職前に夜勤を外れたり、時短勤務に切り替えたりして直近6ヶ月の賃金が下がると、賃金日額も下がります。受給額の面だけ見れば、直近6ヶ月の給与明細(総支給額)を手元に置いて計算するのが確実です。
試算例:30歳・月32万円・勤続6年ならいくら?
モデルケースで試算してみます。30歳・退職前6ヶ月の平均月額32万円(夜勤手当・残業手当込み、税引き前、賞与除く)・雇用保険の被保険者期間6年・自己都合退職の場合です。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 32万円 × 6ヶ月 = 192万円 ÷ 180日(1円未満切り捨て) | 10,666円 |
| 基本手当日額 | 賃金日額5,340〜13,140円の帯 → 給付率80〜50%で逓減 0.8×10,666 − 0.3×{(10,666−5,340)÷7,800}×10,666(1円未満切り捨て) | 6,347円(給付率約59.5%) |
| 所定給付日数 | 自己都合・被保険者期間5年以上10年未満 | 90日 |
| 給付総額の目安 | 6,347円 × 90日 | 571,230円 |
| 月あたり(28日分) | 6,347円 × 28日 | 177,716円 |
約57万円、月換算で約17.8万円が90日分受け取れる計算です(2025年8月1日改定の基準による目安)。夜勤手当込みの月収で計算しているため、基本給ベースで想像するより多い、と感じる方も多いはずです。年齢・給与・勤続年数を変えた自分の条件は、失業保険シミュレーターで同じ計算式のまま試算できます。
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退職時の年齢・直近6ヶ月の給与・勤続年数・退職理由を入れるだけで、基本手当の日額・給付日数・総額の目安を自動計算します。
失業保険の受給額を無料で計算する 登録不要・入力データは送信されませんいつからもらえる? ─ 自己都合と会社都合の違い
「いくら」と同じくらい重要なのが「いつから」です。申請(ハローワークでの求職申込み)後、全員に7日間の待期期間があり、その先が退職理由で分かれます。
| 自己都合(一般の離職者) | 会社都合(特定受給資格者) | |
|---|---|---|
| 給付制限 | 原則1ヶ月(2025年4月改正。5年以内に3回目以上の自己都合退職は3ヶ月) | なし |
| 初回振込の目安 | 申請から約2ヶ月後 | 申請から約1ヶ月後 |
| 所定給付日数 | 90〜150日(勤続年数による) | 90〜330日(年齢・勤続年数による) |
| 受給資格に必要な被保険者期間 | 離職前2年間に通算12ヶ月以上 | 離職前1年間に通算6ヶ月以上 |
看護師の退職は自己都合扱いになることが大半ですが、病気(心身の不調)による退職や、時間外労働が一定基準を超えていた場合の退職などは、「正当な理由のある自己都合」や会社都合相当と判定され、給付制限なし・給付日数優遇となる可能性があります。心当たりがある方は、判定基準を自己都合と会社都合の違いで確認したうえで、証明書類を持ってハローワークに相談してみてください。
退職金はもらえる? ─ 規程と勤続年数がすべて
退職金は法律で支給が義務づけられたものではなく、勤務先の退職金規程(就業規則)があるかどうか、そして自分がその支給条件を満たすかどうかで決まります。確認のポイントは次の3つです。
- 支給条件の勤続年数 — 「勤続3年以上」を条件とする規程が多く、境目の前後で退職日を調整するだけで支給の有無が変わることがあります。
- 計算方法 — 「基本給 × 勤続年数 × 支給率」型が典型で、この場合夜勤手当は算定に含まれないのが一般的です(失業保険とは逆)。公立病院なら条例・規則で、民間病院でも共済や中小企業退職金共済(中退共)経由で支払われる場合があります。
- 自己都合減額 — 自己都合退職では支給率が減額される規程が多くあります。
金額の見当がついたら、税金を引いた手取りを退職金の手取り計算で確認しておきましょう。退職金には退職所得控除という大きな非課税枠があり、勤続年数が長いほど手取り率は高くなります。
看護師の退職手続きの流れ
お金の見通しが立ったら、実際の退職手続きです。一般的な流れは次のとおりです。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 退職を決めたら | 就業規則の退職申出期限を確認(1〜3ヶ月前と定める職場が多い)。シフト作成のサイクルを考えると、余裕を持った申し出が円満退職への近道 |
| 申出期限まで | 直属の上司(師長)に口頭で意思を伝え、退職日を明記した退職届を書面で提出 |
| 退職日まで | 受け持ち患者・委員会・プリセプター業務の引き継ぎ資料を作成。夜勤シフトは自分が抜けた後の組み直しに時間がかかるため、早めに師長と調整 |
| 退職日 | 健康保険証の返却。貸与物(ユニフォーム・IDカード等)の返却 |
| 退職後 | 離職票・源泉徴収票・雇用保険被保険者証・健康保険資格喪失証明書を受け取る(離職票は通常10日〜2週間で郵送)。転職先には看護師免許証(原本または写し)の提示を求められるのが通例なので、保管場所を確認しておく |
退職後14日以内の健康保険・年金の切り替え、離職票が届いてからのハローワーク申請など、退職後の手続き全体は退職後にやること完全ガイドで期限順に整理しています。
辞めた後の選択肢を整理する
「辞める=看護師を辞める」ではありません。選択肢を横に並べて、自分が変えたいものは何か(職場か、働き方か、職種か、それとも一時的な休息か)を先に決めると迷いにくくなります。
| 選択肢 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 別の病院・施設へ転職 | 経験を活かしやすく収入の連続性を保ちやすい。職場の人間関係・夜勤の有無は職場ごとに大きく異なる | 今の職場環境が不満の中心である人 |
| 派遣・パートで働く | 勤務日数・夜勤の有無を選びやすい。収入は変動しやすく、賞与・退職金は原則期待できない | 生活と両立しながら働き方を調整したい人 |
| 訪問看護へ移る | 日勤中心の事業所が多く、利用者と1対1でじっくり関われる。オンコール対応の有無は事業所による | 病棟の夜勤・忙しさから離れたいが看護は続けたい人 |
| 一時的に看護から離れる | 心身の回復を優先できる。看護師免許は失効しないため復職は可能。失業保険の受給には「就職する意思と能力」が必要な点に注意 | 疲弊が強く、まず休養が必要な人 |
どの道を選ぶにしても、失業保険の受給期間は原則、離職日の翌日から1年間です。じっくり考える時間はありますが、申請だけは離職票が届き次第早めに済ませておくと、選択肢を狭めずに済みます。
よくある質問
師長に引き止められて辞められないときはどうすればいいですか?
退職の意思は法律上、労働者の一方的な意思表示で足ります。期間の定めのない雇用契約であれば、民法上は申し出から2週間で退職できます(就業規則により1〜3ヶ月前の申し出を求められるのが一般的で、円満退職のためにはできるだけ従うのが無難です)。引き止めに応じる義務はないため、「退職日を明記した退職届を書面で提出する」「交渉の余地がある相談ではなく決定事項として伝える」のが有効です。強い慰留で話が進まない場合は、看護部長や人事部門など上位の窓口に相談しましょう。
年度途中で看護師を辞めてもいいのでしょうか?
法律上、退職の時期に制限はなく、年度途中の退職も可能です。人員配置やシフトの都合で年度末退職を勧められることは多いですが、体調を崩してまで在籍を続ける義務はありません。一方で、賞与の支給日在籍要件や退職金規程の勤続年数の区切りなど、退職日によって受け取れるお金が変わる場合があるため、就業規則と退職金規程を確認してから退職日を決めるのが実利的です。
退職したら看護師免許は失効しますか?
失効しません。看護師免許は一度取得すれば、退職や離職期間の長さによって効力を失うことはなく、更新手続きも不要です。ただし、氏名や本籍地が変わった場合は籍(名簿)の訂正手続きが必要です。ブランク後の復職に不安がある場合は、都道府県のナースセンター等が実施する復職支援研修を利用する方法があります。
失業保険をもらいながら単発バイトをしてもいいですか?
待期期間(7日間)中に働くと待期が完成せず、支給開始が遅れます。受給中は週20時間未満の就労なら可能ですが、失業認定申告書への申告が必須です。1日4時間以上働いた日はその日の基本手当が支給されず後ろに繰り越され、4時間未満の日は収入額に応じて減額されることがあります。申告せずに働くと不正受給となり、返還に加えて最大2倍の納付(いわゆる3倍返し)を命じられるおそれがあるため、単発の看護バイトであっても必ず申告してください。
※本記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な情報提供です。失業保険の試算は2025年8月1日改定の基準(令和7年8月1日改定の基本手当日額等)による目安で、実際の受給資格・支給額はハローワークが決定します。退職金・就業規則の内容は勤務先によって異なるため、必ず各窓口・勤務先でご確認ください。